アンサングシンデレラ -病院薬剤師の処方箋-
ついに放送が始まりましたね。
全国の薬剤師にとって、待望のドラマです。
第1話の薬学的な背景を、現役病院薬剤師の僕が解説します。
国家試験に出る内容もあるので、薬学生は特に要チェックですよ。
病院薬剤師とは
病院に勤務する薬剤師は、平成30年時点では、全国に約54,000人います。
これは日本中の薬剤師の、15%くらいです。
ちなみに、薬剤師の半分以上が薬局で働いています。
病院薬剤師の業務は多岐にわたります。
病院薬剤師の業務
- 調剤 (内服薬、注射薬、麻薬)
- 薬剤管理指導 (服薬指導)
- Drug Information (DI)
- 抗がん剤調製
- 院内製剤
- 治験薬管理
アンサングシンデレラの第1話で出てきたのは、調剤と服薬指導のシーンですね。
DI室も出てきたけど、実際はあんな暇じゃないです(笑)
アンサングシンデレラ第1話の薬学的背景
第1話では3つの患者さんがいましたね。
それぞれの薬学的な背景について解説していきます。
薬剤師の国家試験に出る内容も盛り沢山ですよ!
アナフィラキシー
オープニングに出てきた、蜂に刺されてアナフィラキシー起こした患者さん。
アナフィラキシーの第一選択薬はわかりますよね?
そう、アドレナリンです。
ドラマでも、瀬野さんがアドレナリン注シリンジを準備するシーンから始まりました。
(普通は、救急外来のベッドの近くに常備しています)
ショックにアドレナリンを使うのは、2つの作用からです。
アドレナリンの作用
- α1刺激作用 → 血管収縮、血圧上昇
- β1刺激作用 → 強心作用 (心筋収縮増強、心拍数増加)
今回の患者さんは、ビソプロロールを服用していることに、主人公の葵みどりが気付きます。
ビソプロロールは、β1受容体の選択性が非常に高い、β遮断薬です。
ビソプロロールを飲んでいたために、アドレナリンによる作用の2つ目が遮断されていたのです。
そのため、アドレナリンを投与しても心臓が動きませんでした。
β遮断薬を飲んでいる患者さんの場合に使うのが、グルカゴンです。
グルカゴンの作用
- 血糖上昇
- 消化管運動抑制
- 強心作用
大学で習うのは、おそらく血糖上昇作用くらいです。
消化管運動抑制の作用があるので、臨床的には内視鏡検査中に使います。
今回使ったのは、3つ目の作用ですね。
グルカゴンは、β受容体を介することなく、cAMP濃度を上昇させることで、強心作用を発揮します。
なのでβ遮断薬を飲んでいる患者さんでも、効果があります。
HELLP症候群
次に出てきた、産婦人科に入院中の妊娠後期の患者さん。
結果的にはHELLP症候群でした。
HELLP症候群
溶血 (Hemolysis)、肝酵素上昇 (Elevated Liver enzymes)、血小板減少 (Low Platelet) の症候を示す状態。妊娠後期または分娩時に生じる。臨床症状としては、上腹部痛、悪心・嘔吐などを示す。
HELLP症候群は、薬剤師にとってはあまり触れる機会のない疾患ですね。
この患者さんに対するシーンでは、医師の診断と葵みどりの考えにズレがありました。
医師の診断
<頭痛>
→ 妊娠高血圧によるもの
→ 痛み止め (カロナール) で対応
<上腹部痛>
→ 胃潰瘍
→ 胃薬 (ランソプラゾール) を処方
→ 胃薬の副作用で肝酵素上昇
最初の情報だけでは、この診断になるのも間違いではないですね。
しかし、患者さんが嘔吐したことを伝えると、医師の顔色が変わりました。
頭痛、上腹部痛、肝酵素上昇に、嘔吐という情報が加わったことで、HELLP症候群を疑ったのでしょう。
ここで、主治医は葵みどりが提案したマグセント (硫酸マグネシウム) を使う判断をしました。
マグセントは子癇 (しかん) の予防および治療に使います。
硫酸マグネシウムの作用
- 子宮収縮抑制作用
投与によって血液中のMgイオンが増加することで、Caイオンとの平衡が破れて、骨格筋の弛緩がおこる。
HELLP症候群と子癇の根本的な解決方法は、妊娠の終了しかなく、そのまま帝王切開になったという訳ですね。
1型糖尿病
第1話では、2人の1型糖尿病の子供が出てきましたね。
まずは糖尿病について、簡単におさらいしましょう。
糖尿病の種類
- 1型:インスリンの絶対的不足。治療にはインスリンの注射剤が必須。
- 2型:インスリンの相対的不足。生活習慣の改善と、飲み薬が治療の主体。
一般的に糖尿病と言われる人のほどんどが2型糖尿病です。
つまりは、生活習慣病です。
肥満、食べ過ぎ、飲み過ぎ、運動不足などが原因なので、自己責任ですよね。
それに対して1型糖尿病は、子供の時に突然発症することが多いです。
普通に生活をしているだけなのに、突然インスリンがないと生活できない体になってしまいます。
しかも患者さんのほとんどが子供です。
ドラマでも描かれていましたが、1型糖尿病の患者さんで難しいのは、
『病気を受け入れて、病気と向き合うこと』
です。
今後のアンサングシンデレラも期待
いかがでしたか?
医療職以外の方には、ちょっと難しかったかもしれません。
しかし、国家試験に臨む薬学生には、必須の知識ばかりですよ。
この他にも、病院薬剤師なら誰もが納得する小ネタが満載で、面白かったです。
今後もアンサングシンデレラで、病院薬剤師の認知度が上がることに期待ですね。
ドラマだけでなく、マンガも楽しみです。